大多喜町の経済


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  本稿は、令和4(2022)年9月1日に行われた議会定例会での一般質問及び答弁を、加筆・修正のうえ掲載したものである。


【要 旨】


  大多喜町の活性化は、経済活性化による雇用と所得の増大によって達成される。地域経済の活性化のためには、生産、分配、支出という経済循環の拡大を図るとともに、地域外へのお金の流出をできるだけ減らして地域経済の縮小を回避しなければならない。
  今回の一般質問はRESASという地域経済分析システムに基づいて行う。第一の質問は、大多喜町活性化のためのシナリオについてである。第二の質問は生産(付加価値額)を取り上げ、その増加策を尋ねる。第三の質問は分配(所得)についてであり、一人当たり所得を増加させるための方策を検討する。第四の質問は支出を対象として、「民間消費額」と「民間投資額」の地域外からの流入の増加、地域外への流出を減少させるための方策や、「その他支出」の地域外への流出を少しでもくい止める方策について尋ねる。
  大多喜町にたいしては、地方創生の眼目が地域経済の活性化による雇用と所得の増大であることをしっかりと認識し、雇用と所得の増大を図るよう期待したい。

【本 文】


  本日は、私が議員活動の中心テーマと考えている大多喜町経済の活性化について考えてまいります。
  地域経済の活性化は雇用と町民全体の所得の増加をもたらします。雇用が増えれば町外からの転入者も増えます。また、転入者にも「提供できるほどの雇用があるとしたら、そもそも地域の若者が職を求めて地域から出ていくこともなく、一度故郷を出たUターン者も戻りやすいはずです。」[枝廣(2018)、3ページ]枝廣淳子氏によれば、「地方から東京に出てきている若者も「地元に帰りたい」という思いを持っている人が少なくない。しかし、「仕事がないから」東京に出てくるし、地元に戻れない」[枝廣(2018)、ⅲページ]と述べています。地方創生の眼目は、地域経済の活性化による雇用と所得の増大であります。大多喜町の活性化とは、雇用と所得が増えることによって住民が増加し、歴史、伝統、文化、言葉を大切にして、心豊かに健康で暮らすことがことができる、そのような大多喜町になることであると、私は考えております。
  地域経済は、「生産」、「分配(所得)」、「支出」というお金の循環という枠組みで考えることができます。図表1をご覧いただければと思います。

図表1 大多喜町の地域経済循環図(2018年)

図表1 起業と人材の地方移転に関する動向

出所:経済産業省および内閣官房 (2024e)

  まず、図の左下にありますように、主として地域内企業の経済活動を通じて付加価値が「生産」されます。「付加価値額は、企業で言えば、粗利益の部分であり、大雑把に言うと、「売上」から「仕入や外注費等の費用」を差し引いた額」[内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(2015b)、3ページ]であります。例えば個々の企業について言うと、売上高というアウトプットから、商品の仕入代、原材料の調達費、外注加工費などのインプットを差し引いた金額であります。商品を段ボールのまま5千円で仕入れ、それを店頭に並べて8千円で販売するときには、3千円の付加価値が生産されたことになります。その活動によって3千円の価値がまさに付け加えられたのであります。だから付加価値と言うのであります。そして、その3千円の中味はと言いますと、主として人件費と企業所得であります(1)
  生産された付加価値は雇用者所得や企業所得として、「分配」されることに なります。ただ、地域内の住民からしますと、さらに例えば交付税、年金、補 助金などで所得を得ますので、今度は、それら全体を含めて民間消費、民間投 資、その他支出というかたちで「支出」されることになります。そしてこの「支 出」はその多くが地域内企業に向けられ、付加価値の生産に環流することにな ります。この環流した付加価値額に注目して、生産(付加価値額)を分配(所 得)で除した値が「地域経済循環率」であり、地域経済の自立度を示していま ます[経済産業省および内閣官房 (2022a)、2ページ]。
  以上のように、地域経済の活性化は「生産」「分配(所得)」「支出」とい うお金の循環という枠組みで考えることができます。しかし、地域経済の循環 を考えるときには、それと並んで、もう一つ重要な視点があります。それは地 域内か地域外かという視点であります。
  「地域経済を取り戻すためには、いったん地域に入ったお金を滞留・循環さ せることで生み出される地域の富や豊かさに焦点をあてる必要」があるのです[枝廣(2018)、29ページ](2)。そして「生産」、「分配(所得)」、「支出」そして地域内企業への環流という循環の「いずれかの過程で地域外にお金が流出した場合、地域経済が縮小する可能性があるため、上記の地域経済の循環を把握し、どこに課題があるのかを分析する必要があります。」[内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(2015b)、1ページ]その結果、雇用と所得の増加につなげていくこと、これが地方創生の目指す姿であります。   今回の一般質問では、内閣官房と経済産業省が提供しているRESAS (Regional Economy Society Analyzing System,地域経済分析システム)とい うデータベースを用います。
  RESASの基本操作マニュアルでは、その有用性(3)について次のように述べています。「本システムの地域経済循環図では、地域外へのお金の流出 や、地域外からのお金の流入も把握できることが特徴です。これにより、「生 産」「分配」「支出」それぞれにおけるお金の循環や、地域内外への流出入の 状況から、地域の経済活動全体を俯瞰して理解することができます。」[経済 産業省および内閣官房(2022a)、1ページ]
  本日の第一の質問は、「地域経済の循環という視点からみて、大多喜町とし てはどのような経済循環シナリオが望ましいと考えているか。」というお尋ね であります。
  図表1は、2018年の大多喜町の地域経済循環図であります。これが現時 点で最新のものでございます。
  繰り返しになりますが、「①地域内企業の経済活動を通じて生産された付加価値は、②労働者や企業の所得として分配され、③消費や投資として支出されて、再び地域内企業に環流する。」[日経ビッグデータ編集部他(2016)、39ページ]ことになります。そしてRESASは、「地域経済の全体像と、各段階におけるお金の流出・流入の状況を把握することができるため、地域の付加価値額を増やし、地域経済の好循環を実現する上で改善すべきポイントを検討することが可能です。」[日経ビッグデータ編集部他(2016)、39ページ]すでに述べましたように、RESASの「地域経済循環図では、地域外へのお金の流出や、地域外からのお金の流入を把握できることが特徴です。」[日経ビッグデータ編集部他(2016)、39ページ]
  内閣官房では、「地域経済循環マップの概要」[内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(2015a)]の後半に、参考資料として「地域経済循環分析シナリオ事例集」を載せています。ここでは例示として挙げられている六つのシナリオのうち二つをご紹介いたします(4)
図表2 子育て環境の改善による住民の流入

図表2 子育て環境の改善による住民の流入

出所:内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(2015a) 、13ページ

  一つ目は、子育て環境の改善による住民の流入であり、図表2を使って説明されています[内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(2015a) 、13ページ]。
  ステップ1では、「子育て環境を改善したことにより、住民(従業地は地域外)が増え、地域外からの雇用者所得の流入が増加」します。図表1で示すと、中央に示されることなります。ここの雇用者所得190億円とその他所得160億円、合計350億円のうち50億円は地域外からの所得流入、これは例えば大多喜町民が茂原市で働いて得た所得などの総計が50億円という意味でございます。ステップ1は、この状況のなかで、例えば市原市に住んで働いていた人が大多喜町に住むようになり、その雇用者所得の総計が60億円に達したという意味であります。この結果、所得の合計は410億円になります。
  ステップ2では、「雇用者の所得増加により、地域内における民間消費額が増加する。」ことになります。図では、民間消費額150億円に60億円がプラスされることを示しています。他方で、地域外に50億円流出しますので、結局、410億円のうち地域内に支出されるのは360億円となります。
  ステップ3では、「地域内の民間消費額の増加により、地域内の第3次産業の付加価値額が増加する。」ことになります。元々は第1次産業60億円、第2次産業180億円、第3次産業60億円、合計300億円の付加価値額でしたが、新たに60億円の支出があったことにより、ここでは第3次産業の付加価値額が60億円増加し、合計で360億円になっています。

図表3 地域外ゼネコンへの役場庁舎改修工事発注による公的支出の流出

図表3 地域外ゼネコンへの役場庁舎改修工事発注による公的支出の流出

出所:内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(2015a) 、12ページ

  二つ目はなぜか悪いシナリオなのですが、地域外のゼネコンへの役場庁舎改 修工事発注による公的支出の流出であり、図表3で説明されています[内閣官 房まち・ひと・しごと創生本部事務局(2015a) 、12ページ]。
  まずステップ1で、「役場の庁舎の改修工事を地域外のゼネコンに発注する ことにより、公的支出が地域外に流出」します。図では右下に示されています。 ここでの前提は、支出全体としては350億円であって、そのうちすでに50 億円が地域外に流出していて残りは300億円であるということであります。 今までは300億円が地域内に支出されていましたが、このうち10億円が地 域外のゼネコンへ10億円発注した場合にどうなるかと言いますと、地域内支 出が300億円が290円億円に減ります。
  その結果、ステップ2で、「地域内の土木・建設関連企業(第2次産業)の 付加価値額が減少する。」ことになります。それが左下の図で示されています。そして当然、ステップ3では「地域内の土木・建設関連企業の雇用者所得や企業所得が減少する。」ことになります。元々、図の中央の分配(所得)では、300億円の生産からの分配があり、さらに地域外から50億円の所得流入があり、合計で350億円の所得がありましたが、それが地域外ゼネコンへの発注により10億円減少することが示されています(5)
  私は、この地域外ゼネコンへの発注というシナリオは、逆に考えていくべきものであると思っております。すなわち、現在、外部へ発注しているものを大多喜町内に発注することにすれば、それだけ大多喜町民の雇用と所得の増大につながるのであります。このシナリオからわれわれが受け取るべきメッセージは、大多喜町役場としては町内の業者に発注すべきであるということでありまして、私はたとえ若干割高になったとしてもお金は地域内に支出すべきであり、そして受注した業者にたいしては、原則として町民を雇い、町内から調達するよう要求すべきであると考えております。
  図表1の大多喜町の地域経済循環図をみてみましょう[経済産業省および内 閣官房(2022e)]。
  ここで、図左下の生産(付加価値額)は、第1次産業が3億円、第2次産業が112億円、第3次産業が185億円で、合計300億円であります。
  また図中央の分配(所得)は、「雇用者所得」が171億円ですが、町民以外にも所得が分配されており、地域外、すなわち大多喜町外への流出が2億円で、結局、地域内、すなわち大多喜町内での所得は173億円になります。また、「その他所得」は190億円に達しますが、地域内での所得は127億円であり、交付税、社会保障給付、補助金など地域外からの流入が63億円あります。
  図右下の支出のうち、「民間消費額」は269億円ですが、所得からの地域内の支出は172億円に過ぎず、地域外からの流入が97億円もあり、大多喜町の民間消費額は地域外に大きく依存しています。また所得からの「民間投資額」は74億円ですが、そのうち地域外への支出が12億円あります。そして「その他支出」は地域外への流出が147億円にも達します(6)
  最後に、所得からの支出が362億円で、支出による生産への環流が300億円ですので、「地域経済循環率」は82.9%になります。経済の自立度を示すこの値は、大多喜町は100%には達していません。
  以上を踏まえて、本日の第一の質問であります。「地域経済の循環という視 点からみて、大多喜町としてはどのような経済循環シナリオが望ましいと考えているのでしょうか。」簡潔にご説明くださるようお願いいたします。

  ただいまの森議員の一般質問にお答えさせていただきます。
  RESASとは、産業構造や人口動態、人の流れなどに関する官民のビッグデータを集約し、可視化するシステムで、地方創生の取組を情報面から支援するために、経済産業省と内閣官房が提供しているものでございます。
  森議員のご質問にある地域経済循環マップもその地域経済分析システム(RESAS)の一つであり、都道府県・市町村単位で、地域のお金の流れを生産、分配、支出の三段階で「見える化」することで、地域経済の全体像と、各段階におけるお金の流出・流入の状況把握が可能となります。
  2018年の地域経済循環図の生産を表す大多喜町の地域内産業ですが、保健衛生・社会事業、公務、その他サービス業などの第3次産業が最も多く、建設業、機械製造業などの第2次産業と合わせると全体の99%近くとなっており、全国、千葉県平均とほぼ同じ状況です。
  地域経済循環図では、地域内での所得の分配支出、また地域外への流出及び地域外からの流入などが示されておりますが、全体の傾向としては近隣自治体と似ている状況であることがわかります。
  本町の地域経済を循環させるシナリオとしては、大多喜町第3次 総合計画でも掲げております、企業等の参入、地域の特産物の開発や流通拠点等への支援による付加価値の増加、また、観光客受け入れ基盤の充実・整備による観光客を増加し、さらに商業経営の近代化の促進により消費額を増加させることで、地域経済の循環を向上させることにつながるのではと考えております。

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  ここから第二の質問に入ります。第二のお尋ねは、生産(付加価値額)に注目して、「付加価値額、従業者数、影響力係数、感応度係数を考慮したとき、今後の産業・経済政策はどのようにあるべきだと考えているか。」ということであります。
  まず、付加価値額を産業ごとに2010年と2018年を比較したものが次であります[経済産業省および内閣官房(2024e)、(2024f)]。
2010年 2018年
第1次産業 7億円 3億円
第2次産業 103億円 112億円
第3次産業 175億円 185億円
合計 285億円 300億円
  一人当たり付加価値額をみてみます[経済産業省および内閣官房(2024e)、(2024f)]。括弧内の順位は、一人当たり付加価値額の全国1,741市区町村のなかでの順位であります。第3次産業の順位の低さにご注目ください。
2010年 2018年
第1次産業 361万円(391位) 347万円(536位)
第2次産業 864万円(500位) 1,141万円(454位)
第3次産業 537万円(1,712位) 673万円(1,674位)

  次の表をご覧いただきたいと思います。これは、大多喜町が2018年に生産した付加価値額300億円の上位15業種を示したものです[経済産業省および内閣官房(2024g)]。

1.その他のサービス 31億円
2.公   務  30億円
3.保健衛生・社会事業 30億円
4.電気機械  26億円
5.はん用・生産用・業務用機械 26億円
6.その他の製造業21億円
7.小 売 業  17億円
8.教   育  12億円
9.運輸・郵便業 12億円
10.建 設 業  11億円
11.鉄 鋼 業  10億円
12.水 道 業  10億円
13.住宅賃貸業  10億円
14.宿泊・飲食サービス業 10億円
15.卸 売 業   8億円

  第二番目に、従業者数の上位15業種を示したのが次の表です。データの制約で2016年のものでございます[経済産業省および内閣官房(2024h)]。

1.医 療 業  417人
2.娯 楽 業  358人
3.飲食品小売業 335人
4.飲 食 店  267人
5.電気機械器具製造業 252人
6.その他の小売業   227人
7.プラスチック製品製造業 192人
8.総合工事業  169人
9.はん用機会器具製造業  169人
10.宿 泊 業  153人
11.社会保険・社会福祉・介護事業  136人
12.●別工事業(設備工事業を除く)  81人
13.道路旅客運送業  73人
14.機械器具小売業  72人
15.飲食料品卸売業  71人

  第三番目に、影響力係数と感応度係数を取り上げます。   影響力係数とは、その産業、例えば飲食・宿泊サービス業に対する新たな需要が、全産業(調達先)に与える影響の強さを示しています[内閣官房(2015b)、7ページ]。例えば観光客が増加して飲食・宿泊サービス業に対する新たな需要が発生しますと、当然、食材等の仕入額は増えますし、タクシー会社の稼働率も高くなるなど、飲食・宿泊サービス業の「調達先」にとっては良い影響が出てきます。計算方法は把握しておりませんが、「1.0を超えて大きいほど、当該産業に対する新たな需要が、全産業(調達先)に与える影響が大きい。」[経済産業省および内閣官房(2024b)、29ページ]です。言い換えると、「数値が大きいほど、その産業の調達先が地域内に多いということになります。」[内閣官房(2015b)、7ページ]
  また、感応度係数とは、「全産業(販売先)に対する新たな需要による当該産業が受ける影響の強さを示します。」[内閣官房(2015b)、7ページ]。例えば飲料業は、大多喜町への転入者や観光客が増えれば、飲料業の「販売先」の産業、例えば宿泊・飲食サービス業にたいする需要が増加します。計算方法は承知しておりませんが、「1.0を超えて大きいほど、全産業に対する新たな需要による当該産業が受ける影響が大きい。」[経済産業省および内閣官房(2024b)、29ページ]のです。言い換えると、「数値が大きいほど、その販売先が地域内に多いということになります。」[内閣官房(2015b)、7ページ]
  影響力係数と感応度係数を調べることによって、大多喜町のなかで「他の産業に影響を強く与えている(影響力係数)産業は何か、他の産業から影響を強く受けている(感応度係数)産業は何かが分かります。」[経済産業省および内閣官房(2024b)、29ページ]

  図表4 影響力係数と感応度係数

図表4 影響力係数と感応度係数

  出所:経済産業省および内閣官房(2024i)

  RESASでは、図表4(7)のように、横軸に影響力係数、縦軸に感応度係数を示した図が示されています[経済産業省および内閣官房(2024i)]。   この図は、0.0を境として四つの象限があります。1~4の数字を手書きで示しましたが、象限の番号でございます。
  経済産業省および内閣官房によるRESAS生産分析の基本操作マニュアルでは、各象限について次のように説明しています[経済産業省および内閣官房(2024b)、29ページ]。

第Ⅰ象限  他産業へ与える影響が大きく、同時に他産業から受ける 感応度も大きい産業。一般的には、基礎資材等の原材料製造業部門がこれに該当し、鉄鋼、パルプ・紙・木製品、化学製品等が含まれる。

第Ⅱ象限  他産業へ与える影響力は小さいが、他産業から受ける 感応度は大きい産業。一般的には、商業、サービス業等、他産業部門のへのサービス提供部門が含まれる。

第Ⅲ象限  他産業へ与える影響力と他産業から受ける感応度ともに小さい産業。一般的には、農業、電力・ガス等の独立型の産業部門が含まれる。

第Ⅳ象限  他産業へ与える影響力が大きいが、他産業から受ける感 応度は小さい産業。一般的には、自動車等の最終財の製造部門が含まれる。

   この「2018年 大多喜町 影響力・感応度分析(産業別)」図の点にマウスの矢印を合わせますと、産業の種類、影響力係数と感応度係数の値が示されます。大多喜町経済に与える影響度の大きい業種に注目するために、影響力指数が高い順に11業種を示したのが次の表です(8)

影響力係数 感応度係数
1.飲   料 1.18 1.25
2.輸送用機械 1.12 1.07
3.農   業 1.10 0.98
4.食 料 品 1.08 1.11
5.宿泊・飲食サービス業 1.08 0.91
6.その他の製造業 1.07 1.12
7.化   学 1.06 1.16
8.水 道 業 1.06 1.08
9.鉱   業 1.06 0.92
10.金属製品 1.05 0.99
11.はん用・生産用・
業務用機械
1.04 0.96

  これまで付加価値の総額、一人当たり付加価値額、付加価値を生み出している産業、従業者数、影響力係数、感応度係数をみてまいりました。それでは、それらを踏まえて、今後の産業・経済政策はどのようにあるべきなのでしょうか。
  付加価値額の生産という視点からみますと、まず第1次産業のブランド化が考えられます。例えば伊勢名物の「赤福」、札幌土産の「白い恋人」、九州の関あじ・関さば、大間のまぐろ、京都の野菜(京野菜)などと同様に、大多喜のたけのこをブランド化する道もあります。大多喜の特定地域で丁寧に育てた米を大多喜米というブランド米にする道もあるでしょう。さらには、農産物を販売するだけでなく加工、販売するいわゆる農業の6次産業化にも挑戦すべきかもしれません。
  第2次産業、第3次産業については、廃校小学校、耕作放棄地(例えば中田耕地)への企業・団体の誘致、新規事業進出・起業受入体制の整備などが考えられます。そして、全国1,741の市区町村のなかで、2010年は1,712位、2018年は1,674位という第3次産業の一人当たり付加価値額の驚くべき低さにたいして、大多喜町の行政課題として何らかの取り組みをすることはできないでしょうか。
  以上を踏まえて、本日の第二の質問であります。生産(付加価値額)に注目して、「付加価値額、従業者数、影響力係数、感応度係数を考慮したとき、今後の産業・経済政策はどのようにあるべきだと考えているのでしょうか。」簡潔にご説明くださるようお願いいたします。

  ただいまのご質問について、商工観光課からお答えさせていただきます。
  森議員のおっしゃる通り、RESASの地域経済循環マップでは、従業員数や影響力指数など様々なデータが示され、大多喜町における業種別数、従業員数、業種別付加価値額、地域を牽引し経済波及効果が見込める産業群等がわかる影響力指数等のデータを見ることができます。
  大多喜町第3次総合計画後期基本計画では、産業・経済~活力にあふれた人が集まるまちをつくる~を基本目標に、各課において計画を遂行しているところであり、RESASのデータを参考にすることで、付加価値額の増加を図り、事業の推進の一助となればと考えます。
  具体的な対策としては、農林分野での特産品のたけのこを利用した水煮などの開発や流通拠点の施設改修、商工業分野での先端設備導入の支援など付加価値の増加や生産性の向上に努めています。
  産業・経済対策は、コロナ感染対策やロシアによるウクライナ侵攻等刻々と社会情勢が変化する中で、町民の皆様方や関係機関等のご協力により経済対策を実施してまいりましたが、更なる連携を図り町全体で対応していかなければならないと考えます。

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  ここから第三の質問に入ります。第三の質問は、分配(所得)に注目して、 「大多喜町の一人当たり所得を増加させるためにはどのような方策がありうると考えているか。」ということであります。
  図表1の大多喜町の地域経済循環図(2018年)をご覧いただきたいと思います。
  ここで図中央の分配(所得)を見ますと、「地域産業が稼いだ付加価値額がどのように所得として分配されたかを把握することができます。」[経済産業省および内閣官房(2024a)、4ページ]生産された付加価値は、「雇用者所得」と「その他所得」に分配されます。
  ここで、「雇用者所得」とありますのは、住民の労働の対価として受け取る賃金や給料のことです[内閣官房(2015b)、4ページ]。そして「雇用者所得」の地域外からの流入とは、例えば大多喜町という「この地域の方々が地域外に勤務して、給料等をこの地域に持ち帰っている状態」のことであります。他方で、「雇用者所得」の地域外への流出(9)とは、例えば大多喜町という「この地域に勤務する方々が、地域外に給料等を持ち帰っている状態」のことです[内閣官房(2015b)、4ページ]。
  また、「その他所得」ですが、「雇用者所得」以外の所得であり、その中味は財産所得、企業所得、交付税、社会保障給付、補助金等であります[内閣官房(2015b)、9ページ]。そして、「その他所得」の地域外からの流入とは、例えば東京都という「他地域の企業からの配当や他地域で納税された税金の再配分等を通じて、この地域にお金が流入している状態」のことです。他方で、「その他所得」の地域外への流出とは、「配当や再配分等を通じて他の地域にお金が流出している状態」のことであります[内閣官房(2015b)、4ページ]。
  それでは、大多喜町の分配(所得)の状況をみてみましょう。2018年に生産された付加価値は、「雇用者所得」に173億円分配されましたが、地域外に2億円流出していますので、大多喜町には171億円しか残っていません。また「その他所得」には、127億円分配されていますが、さらになんと63億円も大多喜町外から流入しています。これらの結果、大多喜町は171億円+127億円+65億円で、約362億円の所得を得ています。
  では、大多喜町の所得は全国的にどの程度のレベルなのでしょうか。次の表は、一人当たり「雇用者所得」と一人当たり「その他所得」の2010年と2018年を比較したものです[経済産業省および内閣官房(2024e) ][経済産業省および内閣官房(2024f) ]。また順位は、全国1,741の市区町村全体でのものです。

【雇用者所得】
2010年 2018年
一人当たり 175万円 184万円
一人当たり順位 1,099位 1,398位

【その他所得】
2010年 2018年
一人当たり 190万円 206万円
一人当たり順位 820位 1,044位

  これを見ますと、一人当たりの「雇用者所得」は8年間で順位を299位も下げていますし、一人当たりの「その他所得」もほぼ同様に224位も下げています。
  次は、「雇用者所得」と「その他所得」を2010年と2018年で比較したものです[経済産業省および内閣官房(2024e) ][経済産業省および内閣官房(2024f) ]。

2010年 2018年
雇用者所得 187億円
(=186+1)
171億円
(=173-2)
その他所得 203億円
(=99+104)
190億円
(=127+63)
合計 390億円 300億円 (端数処理後)

  2010年の「雇用者所得」は生産から分配されるものが186億円で、地域外からの流入も1億円あり、「雇用者所得」は全体で187億円でした[経済産業省および内閣官房(2024f) ]。これに対して、2018年の「雇用者所得」は、生産から分配されるものが173億円ですが、地域外に2億円流出していますので、結局171億円となり、2010年に比べて16億円も減少しています[経済産業省および内閣官房(2024e) ]。「雇用者所得」を増加させなければ民間消費も増えず、間接的には民間投資も増えていきません。大多喜町は、「雇用者所得」の増加のために何をする必要があるのでしょうか。
  2010年の分配された「その他所得」は99億円、地域外からの流入は104億円、合計203億円でした[内閣官房(2024f) ]。しかし2018年には、分配された「その他所得」は127億円に増加しましたが、地域外からの流入が63億円に減少して合計190億円となり、結局、「その他所得」全体では13億円減少しています。
  「その他所得」を増やすためにはどうしたら良いのでしょうか。「その他所得」には財産所得、企業所得、交付税、社会保障給付、補助金等が含まれます[内閣官房(2015b)、9ページ ]が、ここでは地方交付税、国庫支出金、都道府県支出金に注目してみます。大多喜町の平成30(2018)年度財政状況類似団体比較カードによりますと、人口一人当たりでは次の通りです[大多喜町(2022) ]。

大多喜町 類似団体
地方交付税 178,643円 257,669円
国庫支出金 30,190円 68,851円
都道府県支出金 39,825円 73,361円
合計 248,658円 399,881円

  この表をみて分かりますように、大多喜町は類似団体に比べて約15万円少ないです。すでに見ましたように、2018年の一人当たり「その他所得」は206万円ですので、補助金等をせめて類似団体平均程度に獲得できていれば、一人当たり「その他所得」は220万円くらいになっていて、それなりに順位も高かったことでしょう。
  以上の検討を踏まえて第三の質問であります。「大多喜町の一人当たり所得を増加させるためにはどのような方策がありうると考えているのでしょうか。」簡潔にご説明くださるようお願いいたします。


  一人当たり所得増大の方策についてですが、RESASの2010年から2018年の地域経済循環マップを見ると森議員のおっしゃるとおり、大多喜町における一人当たりの雇用所得は順位をさげていることがわかります。
  しかし、各年度の分配(所得)をみると、大多喜町は、地域外への流出が少なく所得は地域内に分配されていることがわかります。
  具体的な方策としては、2018年には、まだ実施されていなかった地域通貨がひとつの方策になり得、地域内での消費はもちろん、町外者も地域通貨を利用できることから、地域外からの流入も見込め、本町の特徴である地域分配の高さから所得増大に寄与することができ、大多喜町における地域経済の好循環に繋がることが期待できます。
  なお、5Gのインフラ整備につきましても、基本的には通信事業者の提供を待つこととはなりますが、通信エリアの現状や通信情報基盤整備等における各種財政支援など情報収集を行ってまいります。また、5Gには、通信事業者が提供する一般的な5G(パプリック5G)の他に通信事業者ではない企業や自治体が、一部のエリア又は建物・敷地内に専用の5Gネットワークを構築する「ローカル5G」、通信事業者が企業や自治体の敷地内に必要な5Gネットワークを提供する「プライベート5G」などもございますので、それらの活用も考えていく必要があると考えます。   私の今回の質問が、施策の立案と推進、今後の計画策定などにおきましてなにがしかの貢献ができるのであれば、誠に幸いです。
  このことから、商工観光課としても地域通貨を利用できる登録店の増加を促進し一人当たりの所得増大に繋げられるよう努めてまいりたいと考えます。
  また、少子高齢化社会の中で、定年された方々の働く場の確保、移住定住の促進など生産人口の拡大を図ることで一人当たりの所得増大に寄与できると考えます。

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  本日は、大多喜町経済の活性化による雇用と所得の増大を図るという観点から、企業誘致、起業支援・企業の新規進出支援、5G、6Gへの対応について質問をしました。本日の私の質問をごく簡単にまとめますと、企業と起業の支援をすべきであり、そのためには5G、6Gへの対応は不可欠である、大多喜町としてはそれらについてどのような道筋を考えているのか、ということでありました。
  現在の大多喜町は消滅の瀬戸際にあり、時間的余裕はもうありません。多くの選択肢を視野に入れて調査し、大多喜町活性化への道を前へ前へと歩むしかありません。行政責任者としての大多喜町には、地域経済を活性化させることにより雇用と所得を増大させ、先祖から引き継いできたこの大多喜町をしっかりと後世に残していくよう期待したいと思います。
  私の今回の質問が、施策の立案と推進、今後の計画策定などにおきましてなにがしかの貢献ができるのであれば、誠に幸いです。


  ここから、最後の第四の質問に入ります。第四の質問は、地域経済循環図の支出についてです。お尋ねは、「大多喜町内での支出を増加させるためには、① 民間消費額の地域外からの流入を増加させる、② 民間投資額の地域外への流出を減少させる、③ その他支出の地域外への流出を減少させることが必要である。大多喜町内での支出を増加させるためにはどのような方策がありうると考えているか。」ということであります。
  改めて、図表1をご覧いただきたいと思います。
  図右下で示されている支出によって、「地域内の住民・企業等に分配された所得がどのように使われたかを把握することができます。」[経済産業省および内閣官房(2022a)、5ページ]そして支出を構成しているのは、「住民の消費等を示す「民間消費額」、企業の設備投資等を示す「民間投資額」と、政府支出、地域内産業の移輸出入収支額等を示す「その他支出」」の三つであります[経済産業省および内閣官房(2024a)、5ページ]。
  まず「民間消費額」ですが、観光地や大型商業施設を抱える地域は、「民間消費額」が地域外から流入してきますし、反対に郊外のベッドタウンや商店街が衰退した過疎地域などでは、「民間消費額」が地域外に流出していきます[内閣官房(2015b)、10ページ][日経ビッグデータ編集部他(2016)、44ページ]。
  大多喜町の「民間消費額」は所得から支出されるのが172億円、地域外からの流入が97億円で、合計269億円であります。大多喜町としては、町民が町外で購入する必要を少なくし、他方で大多喜町外の方々に大多喜町に消費目的で来ていただくことを推進すべきであります。観光客の増加は「民間消費額」の地域外からの流入になりますので、観光業の振興が大多喜町経済の拡大にとって重要であることも分かります。ただし、大多喜町内にいったん流入してきた民間消費額が大多喜町内を素通りしていってしまうこともありえますので、その対策をしっかり行わないと大多喜町の活性化にはつながりません(11)
  次に「民間投資額」をみてみます。「民間投資額」が地域外へ流出している場合には、「地域の労働生産性も低いなど生産面が芳しくなく、投資が域外に流出し、地域経済が縮小するという負の循環に繋がる可能性」があるとのことであります[内閣官房(2015b)、10ページ]。他方で、「民間投資額」が地域外から流入している場合には、「生産面でも好調な場合が多く、企業の投資が生産販売の増加に結び付くという好循環が生まれて」いくとのことであります[内閣官房(2015b)、10ページ]。
  大多喜町の「民間投資額」は所得から支出されるのが74億円ですが、そのうち12億円が地域外へ流出してしまっており、町内での投資額は62億円にとどまります。「民間投資額」74億円を大多喜町外に流出させず、逆に大多喜町内への流入を図る方策はないのでしょうか。
  最後に、「その他支出」についてふれておきます。「その他支出」は「政府支出と地域産業の移輸出入収支額等が含まれており、市役所や国の出先機関等からの発注額などもこの項目に含まれます。」[内閣官房(2015b)、4ページ]。大多喜町の「その他支出」をみると、なんと147億円が大多喜町外へ流出しています。
  ここで、大多喜町の2010年と2018年の「支出流出入率」をみてみます。「支出流出入率」は、地域外から流入・地域外に流出した金額を地域内に支出された金額で割った値です[内閣官房(2015b)、5ページ]。その解釈について内閣官房では次のように説明しています。「この値がマイナスの場合は、地域で稼ぎ、地域で得た所得が他地域へ漏れていることになり、企業の新たな生産販売活動に繋がらず、地域の経済循環がうまく機能していない可能性があります。地域が地域内外の消費、投資をより多く受け止め、稼ぐ力を付けて、付加価値を高めることが重要です。」[内閣官房(2015b)、5ページ] 「民間消費額」「民間投資額」「その他支出」のそれぞれの流出入率について2010年と2018について示したのが次の表であります[経済産業省および内閣官房(2024e)、(2024f)]。なお、私自身でも計算してみましたが、次のような結果にはならなかったことを正直に申し上げておきます。

2010年 2018年
民間消費額 79.7%(21位) 56.4%(39位)
民間投資額 -20.0%(854位) -15.9%(787位)
その他支出 -184.2%(1721位) -127.5%(1643位)

  大多喜町の2018年の地域経済循環図で最も問題があるのは、「その他支出」であります。所得からの支出362億円のうち、この「その他支出」で147億円を町外に流出させてしまっているのです。すでに述べましたように、「その他支出」は政府支出と地域産業の移輸出入収支額等です。「その他支出」の大多喜町外への流出を減らすためにはどのようにしたらよいのでしょうか。
  以上を踏まえて第四の質問をいたします。「大多喜町内での支出を増加させるためにはどのような方策がありうるとお考えでしょうか。」簡潔にご説明くださるようお願いいたします。


  大多喜町内での支出を増加させる方策に係る最初のご質問の、「民間消費額の地域外からの流入を増加させる」ための方策については、先ほどご説明した地域通貨の登録店の増加や充実した運用の構築が考えられます。また、観光面に視点をおいた場合、町のPR動画を作成しロケーションサービスを推進し、大多喜の魅力を広く発信することで、観光客が大多喜町での買い物や食事等お金を使ってもらうことも地域外からの流入の増加、地域内での消費の増加に波及していくと考えます。
  次のご質問の「民間投資額の地域外への流出を減少させる」ための方策については、中小事業者等の事業所の施設を町内に整備してもらうための土地の確保や設備資金の活用など、関係課と連携しより良い方策を協議できればと考えます。
  最後のご質問の、その他支出の地域外への流出を減少させるための方策については、支出の民間消費額の地域外からの流入を増やすことにより、その他所得の流出を補えると考えますので、地域通貨の登録店の増加や充実した運用の構築や観光客の誘致、テレワークの推進など地域内の支出に視点を向けた方策が有効と考えます。

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  本日は、大多喜町経済の活性化による雇用と所得の増大を図るために、RESASという地域経済分析システムを用いて四つの質問をしました。
  大多喜町では現在、第3次総合計画、後期基本計画の進行中であります。前期基本計画[大多喜町(2016)]におきましても後期基本計画[大多喜町(2021)]におきましても、産業・経済は基本目標2とされ、「活力にあふれた 人が集まるまちをつくる」という理念も示されています。
  私は、一般質問において認識の共有と問題提起をし、そのことにより、大多喜町にたいしてなにがしかの貢献をしたいと願っております。その願いをご披露し、私の本日の一般質問を閉じさせていただきます。



(1)  企業会計では、一般に、付加価値額を人件費、賃借料、金融費用、租税公課、法人・住民・事業税、当期純利益の合計により計算する[森(2015)、165ページ]。これを純付加価値と言い、さらに減価償却費を加えて粗付加価値と言う。

(2)  枝廣淳子氏は、住民、企業、行政の購買・調達額のうち、地域内での購買・調達が20%のA地域、80%のB地域が作り出す新たな価値の金額を次のように例示している[枝廣(2018)、32-33ページ]。A地域に交付金、観光客の支払いなどで1万円が流入したとき、1万円のうち地域内で使われるのが20%の2,000円、2巡目にそのうちまた地域内で使われるのが2,000円の20%の400円というようにして計算すると、最終的には1万円の流入は12,500円の価値を生み出す。これに対してB地域は、同じ1万円でも、流入した1万円のうち地域内で使われるのが80%の8,000円、2巡目でまた地域で使われるのがその80%の6,400円となり、最終的な合計金額は約5万円で、20%と80%の違いがなんと16倍もの違いとなる。なお、2018年の大多喜町は83.1%であるが、100%を目標にしなければならない。

(3)  RESASの目的については、次のように説明されている[内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(2016)、2ページ]。

★    人口減少、過疎化が構造的に進行し、疲弊する地域経済を真 の意 味で活性化させていくためには、地域の現状・実態を正確に把握した上で、将来の姿を客観的に予測し、その上で、地域の実情・特性に応じた施策の検討とその実行が不可欠。

★    このため、国が、地域経済に係わる様々なビッグデータ(企業 間取引、人の流れ、人口動態、等)を収集し、かつ、わかりやすく「見える化(可視化)」するシステムを構築することで、真に効果的な施策の立案、実行、検証(PDCA)を支援する。

(4)  他の四つの地域経済循環シシナリオは、次の通りである [内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局(2015a)、8-11ページ]。

  1. 商店における地域内産農産物の調達量の増加

    ステップ1:商店が地域内で生産された農産物の調達量を増やす ことにより第1次産業及び第3次産業の付加価値額 が増加する。

    ステップ2:第1次産業及び第3次産業の雇用者所得が増加する。

    ステップ3:雇用者所得の増加により、地域内における民間消費額が増加する。

  2. 外国人観光客誘致による消費額の増加

    ステップ1:地域資源の6次産業化を促進するために、農家、食料加工業者、研究機関等が地域外のファンドから資金調達をして、設備投資をする。

    ステップ2:お土産、宿泊サービス等の新規需要に伴い、観光産業及び関連産業の付加価値額が増加する。

    ステップ3:観光関連産業の雇用者所得や企業所得が増加する。

  3. 地域資源の6次産業化による投資額の増加

    ステップ1:外国人観光客の増加により、地域内における民間消費額が増加する。

    ステップ2:投資された企業・団体が6次産業化に取り組み、付加価値額が増加する。

    ステップ3:6次産業化に取り組んだ企業の雇用者所得や企業所得が増加する。

  4. 地域外のおける大型小売店進出による地域内消費額の減少

    ステップ1:地域外に大型小売店が進出したことにより、地域住民の消費が地域外に流出する。

    ステップ2:地域内の消費減少により、小売・サービス産業(第3次産業)の付加価値額が減少する。

    ステップ3:小売・サービス産業の企業の雇用者所得や企業所得が減少する。

(5)  ただし、この図は、350億円の青色部分以外に、さらに地域外からの所得流入が50億円存在するように示しているので、注意が必要である。

(6)    内閣府ビッグデータチームに問い合わせたところ、青色部分の-32億円は、支出者が域内の者か否かは問わずに「地域内でのその他支出」により、地域外に32億円が流出していることを示しているという。また147億円の意味については、地域内の者が地域外に115億円の「その他支出」をしており、これも地域外に流出しているので、結局、147億円が地域外に流出していることを示しているという。

(7)  この図では、上部に「第1次産業>すべての中分類」と示されているが、「すべての大分類」を選択したうえで「すべての中分類」を選択している。なんらかの表示ミスと思われる。

(8)  感応度係数が高い順に5業種を示すと、次のようになる。

影響力係数 感応度係数
1.運輸・郵便業 0.98 1.43
2.飲   料 1.18 1.25
3.専門・科学技術・
業務支援サービス業
1.00 1.24
4.その他のサービス 0.98 1.22
5.化   学 1.06 1.16
6.卸 売 業 0.95 1.16

(9)  「雇用者所得」が地域外に流出しているのは多くの勤務者を 抱えるビジネス街などであり、逆に「雇用者所得」が地域外から流入しているのは郊外のベッドタウンなどが該当するという[内閣官房(2015b)、8ページ]。

(10)  大多喜町の類似団体とは、産業構造(Ⅱ次、Ⅲ次80%以上 でⅢ次が60%以上)と人口(5,000以上~10,000未満)が類似しているⅡ-2という町村類型であり、御宿町、長南町、睦沢町鋸南町、長柄町など68団体が属している[総務省(2022) ]。

(11)  枝廣淳子氏は、地域内素通りについて次のように説明している。「政府からの交付金や補助金のほか、企業誘致、観光客の呼び込みなど各地域は懸命に努力をしています。しかし、そうやってせっかく地域に引っぱってきたお金の多くが、次の瞬間には地域外に漏れ出ていないでしょうか? 補助金で行った建設工事が地域外の業者の手によるものだったら、その工事費用の大部分は地域外に出て行ってしまいます。企業誘致をしても、その原材料や販売・メンテナンスなどの関連企業が地域になければ、やはりせっかくのお金も「素通り」していってしまうでしょう。従業員として地元の人を雇用していたら、その給与は地域に入りますが、その従業員が地元の商店ではなく、郊外にある大規模ショッピングセンターで買い物をするとしたら、従業員を「通り抜けて」、やはり、そのお金は地域の外に出て行きます。観光客を呼び込んで、土産物を買ってもらったとしても、その土産物が地域外や国外でつくられたものであれば、やはりお金は地域にとどまりません。」[枝廣(2018)、19-20ページ]




【参考文献】

枝廣淳子『地元経済を創りなおす-分析・診断・対策』岩波書店、平成30(2018)年。

大多喜町「平成30年度類似団体比較カード」、 https://www.soumu.go.jp/main_content/0006677045.pdf、令和4(2022)年8月30日アクセス。

大多喜町「大多喜町第3次総合計画 後期基本計画 2021-2025」、令和3(2021)年3月。

大多喜町「大多喜町第3次総合計画 基本構想・前期基本計画」、平成28(2016)年3月。

経済産業省および内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「地域経済分析システム 基本操作マニュアル 地域経済循環図」、https://resas.go.jp/manual/#/12/12441、29ページ 令和6(2024a)年1月11日アクセス。

経済産業省および内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「地域経済分析システム 基本操作マニュアル 生産分析」、https://resas.go.jp/manual/#/12/12441、令和6(2024b)年1月11日アクセス。

経済産業省および内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「地域経済分析システム 基本操作マニュアル 分配分析」、https://resas.go.jp/manual/#/12/12441、令和6(2024c)年1月11日アクセス。

経済産業省および内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「地域経済分析システム 基本操作マニュアル 支出分析」、https://resas.go.jp/manual/#/12/12441、令和6(2024d)年1月11日アクセス。

経済産業省および内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「地域経済循環図 2018年 指定地域:千葉県大多喜町」、https://resas.go.jp/regioncycle/#/map/12/12441/2/2018/-、令和6(2024e)年1月7日アクセス。

経済産業省および内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「地域経済循環図 2010年指定地域:千葉県大多喜町」、 https://resas.go.jp/regioncycle/#/map/12/12441/2/2010/-、令和6(2024f)年1月7日アクセス。

経済産業省および内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「地域経済循環マップ 生産分析 千葉県大多喜町 付加価値額(総額)」 2018年」、 https://resas.go.jp/regioncycle-production/#/portfolio/10.026984441098826/35.2848301/140.2454165/12/12441/2/0.0/2018/2/1/-/-/-/- 、令和6(2024g)年1月17日アクセス。

経済産業省および内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「201 6年 千葉県大多喜町 従業者数(事業所単位)中分類」 https://resas.go.jp/industry-all/#/map/12441/2016/2/7/2/-/1/1/1/-/-/2012/2016 令和6(2024h)年1月9日アクセス。

経済産業省および内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局「地域経 済循環マップ 生産分析 千葉県大多喜町 2018年 影響力・感応 度分析(産業別)」、 https:// resas.go.jp/regioncycle-production/#/scatter/10.026984441098826/35.2848301/140.2454165/12/12441/2/0.0/2018/1/3/01/-/-/- 、令和6(2024i)年1月17日アクセス。

総務省「類似団体別職員数の状況」、 https://www.soumu.go.jp/main_content/0006677045.pdf、 令和4(2022)年8月30日アクセス。

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地域経済分析システム(RES AS)について」、平成28年(2016)年12月、 https://cas.go.jp/jp/seisaku/ebpm_kenkyukai/dai9/siryou2.pdf、令和4(2022)年7月21日アクセス。

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地域経済循環マップの概要」、平成27年(2015a)年12月、 https://resas.go.jp/regioncycle/#/map/12/12441/1/2018、令和4(2022)年7月21日アクセス。

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地域経済循環マップについて」、平成27年(2015b)年12月、 https://city.shiso.lg.jp/material/files/group/69/10_senryaku_keizaijunkankaisetu.pdf、令和4(2022)年8月25日アクセス。

日経ビッグデータ編集部、小谷祐一朗、榎本真美、松浦義昭、矢崎裕一『RESASの教科書 リーサスガイドブック』日経BP社、2016(平成28)年。

森久「第13章 生産性の分析」、森久・関利恵子・長野史麻・徳山秀邦・蒋飛鴻・平屋伸洋『財務分析からの会計学〔第3版〕』森山書店、2015年、163-175ページ。