企業・起業支援
本稿は、令和4(2022)年12月1日に行われた議会定例会での一般質問および答弁を、加筆・修正のうえ掲載したものである。
【要 旨】
大多喜町を活性化させるためには、雇用と所得の増大を図らなければならない。それには雇用と所得を生み出す主体である企業の誘致や進出を促すとともに、起業支援などにも注力すべきである。また、通信インフラを他の自治体に先んじて整備することにより、企業の誘致、起業、企業の新規進出が容易となる。
今回の一般質問は、企業・起業支援のためにどのような方策がありうるのかを問うものである。第一の質問は、企業誘致のための施策について尋ねる。第二の質問は、起業支援、企業の新規進出支援の方策についてである。第三の質問は、企業誘致、起業支援、企業の新規進出支援のために不可欠な5G、6Gへの対応について考える。
本日の質問をごく簡単にまとめると、企業と起業の支援をすべきであり、そのためには5G、6Gへの対応は不可欠である、大多喜町としてはそれらについてどのような道筋を考えているのか、ということである。
現在の大多喜町は消滅の瀬戸際にあり、時間的余裕は無い。行政責任者としての大多喜町には、地域経済を活性化させることにより、先祖から引き継いできたこの大多喜町をしっかりと後世に残していくよう期待したい。
【本 文】
私は、議員活動のいわば本丸として地域経済の活性化を考えております。大多喜町の存続と発展のためには、何よりも地域経済が活性化して、雇用と所得を増大させなければなりません。その観点から、前回は地域経済を取り上げ、本日は、企業誘致、起業支援、企業の新規進出の支援、それらのために不可欠な5G、6Gへの対応について考えてみたいと思います。
本日の第一の質問は、「今後の大多喜町にとってどのような企業誘致制度が望ましいと考えているか。」というお尋ねであります。
経済産業省関東経済産業局地域経済部が令和3(2021)年4月に報告した「地方移転に関する動向調査結果【概要版】」[経済産業省(2022) ](1)では、地方への企業移転について図表1のようにまとめられています[経済産業省(2022)、2ページ ]。
1.企業側
- 移転検討企業は1割弱。過去に移転経験のある企業も含めた移転関心企業は3割弱。業種では情報通信業、規模別では小規模な企業の方が多い。
- 企業が考える移転先選定条件は、コスト、営業機会、インフラ、雇用を重視。
2.自治体側
- 自治体間での企業誘致に係る情報共有ニーズはあまりない。
- 自治体が考える企業の移転先選定条件は、インフラ、コスト、雇用が上位。一方、企業が考える移転先選定条件としている営業機会は上位に入っておらず、企業の思惑とミスマッチ。
- 移転後の企業へのサポート施策を提供している自治体は少ない。
- 新型コロナウイルスにより、企業誘致へマイナス影響(ママ)あったと3割の自治体が回答。
図表1 起業と人材の地方移転に関する動向
出所:経済産業省(2022)、2ページ
また、自治体による支援については、図表2のように示されています[経済産業省(2022)、7ページ ]。自治体が提供しているサービスにはさまざまなものがあり、そのなかで固定資産相当額に対する補助、用地取得に対する補助、従業員雇用に対する補助が比較的多いと言えます。
3.地方移転に関する動向調査結果:企業移転⑤
- 補助金や税制優遇など金銭面で同様の支援を行う自治体が多い。
- 一方で、人材面での支援を行う自治体が少ない。
Q.自治体(ママ)、移転前の企業に提供しているサービス(n=171、複数回答)
・移転後の税金相当額に対する補助
- 固定資産相当額に対する補助(39件)
- 年計画税相当額に対する補助(6件)
- 河川占用料相当額(2件)
・投下資本に対する補助
- 用地取得に対する補助(24件)
- 設備取得に対する補助(4件)
・その他
- 従業員雇用に対する補助(22件)
- サテライトオフィス設置に対する(5件)
図表2 起業の地方移転に関する動向
出所:経済産業省(2022)、7ページ
さらに、移転後の企業に提供しているサービスについて、自治体の42.1%が移転後の維持費用に対する補助金、税制優遇をしており、実施していない自治体も32.2%、ありました[経済産業省(2022)、8ページ ]。
最後に、(参考)とはされていますが、この調査から導き出される「政策検
討の方向性」という表現で、図表3においては次のような三つが挙げられてい
ます[経済産業省(2022)、15ページ ]。経済産業省関東経済産業局としてはこ
のような政策を進めたいということが伺えます。
政策検討の方向性
- 各地域と首都圏企業の接点機能の検討・構築
- 自治体の戦略的な事例の類型化・情報発信
- 移転企業と地域企業間交流を通じたイノベーション創出支援
図表3 起業移転の課題と対応の方向
出所:経済産業省(2022)、15ページ
また図表3の右上には、起業(本社機能等)移転が「地域活性化への貢献」に結びついているということも示されています。地域活性化は企業(本社機能等)移転大きな役割を果たしていることが分かります。大多喜町の活性化のためには、企業(本社機能等)移転を一層強く促す政策が必要と言えます。
ところで、我孫子市は、令和3年4月1日より「市内に新たにオフィスを開設する事業者や市内の支社等に本社機能を移転する事業者」に対して、総額で最大500万円の補助をしています[我孫子市(2022) ]。『千葉日報』では次のように報道されています。
「我孫子市は市内にオフィスを新設したり、本社機能を移転したりする事業者に補助する制度を4月1日から設けた。税収増や雇用確保が狙いで、新型コロナウイルスの影響で都内から市内に本社を移転したいなどの相談があったのがきっかけ。要件を満たせば最大500万円を補助する。本社機能の一部の移転も対象にするのは県内初という。補助金のメニューは「オフィス開設費」と「雇用拡大支援費」の二通り。オフィス開設費の補助額は改修費などオフィス開設費や本社機能移転に必要な経費の2分の1で最大300万円。補助限度額は配置される常時雇用者数に応じる。・・・・・雇用拡大支援費はオフィス開設費の補助対象者で、オフィス開設または本社移転の3カ月前~3年後の期間に「常時雇用者が市内に移住した」または「市民を新たに雇用した」などを要件に新規雇用者・移住者1人につき10万円、最大200万円(20人分)を補助する。」[千葉日報(2021) ]
御宿町でも、令和4年1月1日以降に千葉県外から御宿町に本社を移転、支社等を開設する企業にたいして、最大200万円の補助金を交付しています[御宿町(2022) ]。目的は、「多様な働き方に取組む企業を支援し、本町への移住促進・地域活性力創出を図るため」[御宿町(2022) ]とのことです。
大多喜町にも、「大多喜町企業誘致及び雇用促進に関する条例」があります。その第5条においては、次のように定められています[大多喜町(2021) ]。
(奨励措置)
第5条 町長は、対象事業者に対し、次に掲げる奨励措置を行うことができる。
(1)事業所設置奨励金の交付
(2)雇用促進奨励金の交付
2 事業所設置奨励金は、対象施設(増設の場合は増設部分のみをいう。)に係る建物又は償却設備の取得価格の合計額が1,000万円以上のものについて、・・・・・納付された各年度の固定資産税相当額以内を5か年助成する。・・・・・
3 雇用促進奨励金は、・・・・・新規雇用者1人につき、50万円を乗じた額を交付する。・・・・・
この第5条は、「対象施設(増設の場合は増設部分のみをいう。)に係る建物又は償却設備」とあることから、工場の新設、増設を想定しているように思われます。しかしながら、経済産業省関東経済産業局地域経済部による「地方移転動向調査結果」にありましたように[経済産業省(2022)、7,8ページ ]、補助金のあり方は多様です。地域の特性に合わせ、しかも時代に即応した補助金のあり方を大多喜町でも検討する必要があります。
我孫子市や御宿町の新しい補助金は、そうした検討の結果であると思われます。ただ補助金の額が、成果を上げるほどの、企業にとって誘因となるような金額かと問われれば、疑問符のつくところであります。
2020年に5Gの商用サービスが開始され[亀井(2019)、67ページ ]、2030年代には6Gの時代となります[森川(2020)、244ページ ]。すでにNTTドコモが「5Gの高度化と6G」という白書を発表し、NTTも6G時代のネットワーク構想である「IOWN(アイオン)」を公表しました[森川(2020)、245ページ ]。
これからの企業は先進的な通信インフラを前提として活動します。良い例ではありませんが、例えば何十年か前を想像し、インターネットが次第に普及するなかで活動している企業が、アナログ式の電話しかなくインターネット環境の整備がずっと先であるような地域に進出するでしょうか。大多喜町が企業誘致するにあたっては、5Gの整備、6G構想への対応は不可欠です。
以上を踏まえて、第一の質問であります。「今後の大多喜町にとってどのような企業誘致制度が望ましいと考えているのでしょうか。」簡潔にご説明くださるようお願いいたします。
ただいまの森議員の一般質問について商工観光課からお答えさせていただきます。
森議員のおっしゃるとおり、我孫子市では、同市へのオフィスの立地を促進することを目的に、御宿町では新型コロナウイルスによって高まった多様な働き方に取組む企業を支援し、同町への移住促進及び地域の活用の創出を図るためそれぞれの市町が、要綱を制定し企業誘致等の推進を行っています。
本町における企業誘致に係る現行の制度については、「大多喜町企業誘致及び雇用促進に関する条例」により、町内において事業所の新設、増設又は移設を行う者に、建物又は償却設備の取得価格が合計1,000万円以上のものについて、納付された各年度の固定資産税相当額以内を5か年助成し、雇用奨励金については、交付要件はございますが、新規雇用者1人につき50万円、上限1,000万円を交付する内容であり、産業の振興と雇用の促進を図る制度でございます。
また、企業誘致には定住促進を図ることにより、働き手の確保へ繋がることが期待できることから、「大多喜町移住支援事業支援金交付要綱」を定め、本町への移住、定住の促進及び中小企業等における雇用促進を図り、さらに空き家バンク事業では、本町への定住の促進を推進するために、空き家の家財撤去や利用促進奨励金(リフォーム補助金)制度の活用を促すことで定住人口や交流人口の増加の推進に努めています。
ご質問のどのような企業誘致制度が望ましいかとのことですが、現在のところは、現行の企業誘致制度や移住定住制度を周知、推進することで、企業誘致や移住定住に努めてまいりたいと考えますが、本町の実態に合った支援が必要であると考えます。
ここから第二の質問に入ります。第二のお尋ねは、「週末起業や企業の新規進出などを促すためには、どのような方策がありうると考えているか。」ということであります。
週末起業というのは、藤井孝一氏による造語です。藤井氏によれば、「週末起業」とはサラリーマンが「会社を辞めずに“起業”すること」[藤井(2003)、9ページ ]であります。
ただ、ここでは表現の煩雑さを避けるために、週末起業という用語だけを用い、それによって企業による大多喜町への新規進出なども表すことにします。週末起業を促すことができれば、企業の新規進出も同時に促進できるからです。
藤井孝一氏によれば、多くの人が、会社を辞めずに趣味や特技を活かし、週末などにビジネスをしているとのことです[藤井(2003)、40ページ ]。こうした週末起業家は、会社に勤務しながら、平日の空き時間や週末などを使って起業するという二重生活をしています[藤井(2003)、41ページ ]。
例えば、次のような人たちがいます[藤井(2003)、40ページ ]。
- インターネットを使って趣味のカメラや鉄道模型を売る人
- 趣味の自転車で得た自転車修理の技術を人に教える学校を開設した人
- 自分が作曲した曲を、自分でCD化して販売している人
- 結婚式の司会の副業がこうじて、司会者派遣業をはじめた人
- 夜景観賞で得た知識を生かして夜景評論家と称している人
週末起業家に共通しているのは、次の2点と自分の大好きなことをビジネスにしていることです[藤井(2003)、41ページ ]。
- お金をかけずにはじめたこと
- インターネットを駆使していること
起業には、当然のことながら失敗するというリスクがあります。そのため、小資本で始め、出資や融資は受けるべきではなく[藤井(2003)、68ページ ]、インターネットを活用することにより、元手がほとんどなくてもビジネス(2)ができるようになったとのことです[藤井(2003)、67ページ ]。
起業支援の考え方をインキュベーションといいます(3)。ビジネスの世界では、インキュベーションの意味は、“起業や新事業の創出を経営・技術・資金等の面で支援し、その成長を促進させること”です[あずさ監査法人(2022)、2ページ ]。そしてこの言葉には、手を貸して生まれさせるというイメージがあるといいます[あずさ監査法人(2022)、2ページ ]。
インキュベーションにおいてはインキュベーター(4)(起業家支援者)が大きな役割を果たします。インキュベーターが目的としているのは、「新たなビジネスを始めようと考えている人や企業に対して、不足しているリソース(5)(例:資金・オフィス・ソフトなど)を提供し、事業の成長や企業価値の向上などを図ること」[東大IPC(2022) ]です。
週末起業において「費用を抑えながら快適な施設を確保する必要性は非常に大きい」ですから、「モノ(場所)の提供を通じたインキュベーションが役立つ可能性」があります[東大IPC(2022) ]。また、「創業に関するノウハウや専門的なアドバイスの提供などを通じて、支援対象の事業の育成・管理をサポート」したり、「日々発生する課題・問題に対する相談」にも対応したりする、ヒトの支援も重要です[東大IPC(2022) ]。
大多喜町で考えてみますと、モノ(場所)は廃校小学校がありますし、ヒトについては経験豊かで大多喜町をよく知る定年退職者たちがいます。旧小学校の教室を区分して施錠可能なオフィスを作り、定年退職者がインキュベーションマネージャーあるいは友人として助言する、そのような仕組みが作れないものでしょうか。この仕組みができますと、大多喜町は町立の小規模インキュベーションセンター(6)をもつことになります。
遠方の週末起業者がこのインキュベーションセンターを使うさいには、宿泊場所が必要です。コストの関係から、週末起業者がホテル、旅館、民宿という宿泊施設を使うことはありません。町立インキュベーションセンターを開設するならば、同時に、大きな空き家を丁寧に補修し、それを宿泊に充てることが必要と思われます。トイレ、入浴設備は共用とし、自炊が可能な台所も備えます。
宿泊場所で大切なのは、交流スペースです。町民のインキュベーションマネージャーも参加して、週末起業家からさまざまな取り組みが紹介され、意見交換が行われ、時には事業連携のきっかけにもなることでしょう。大多喜町の若手経営者が飛び入り参加することは大歓迎です。週末起業家はこうした交流を望んでおり、インキュベーションセンターは空きスペースの提供というレベルにとどまるものではけっしてありません。
週末事業者には、インキュベーションセンターと低廉な宿泊先を提供する代わりに、町民に経済的利益をもたらすような強制してもよいでしょう。例えば、古本の売買をするなら町民所蔵の古本を扱うよう求めたり、名産品販売をするのであれば、大多喜町の筍、米などを取扱品目に加えるよう促すことが考えられます。
最初に申し上げましたように、週末起業という言葉を使いましたが、それには大多喜町への新規進出の意味も含めています。週末起業が可能であるならば、大多喜町への企業進出にも充分に対応できます。大多喜町の雇用と所得の増大のためには、週末起業であっても成立しうる環境を整備し、週末起業家のみならず、大多喜町への企業進出を促すべきであるというのが、この第二の質問の趣旨です。けっして週末起業のあり方自体を検討しているわけではありません。
なお、起業や企業の新規進出にあたっては5G、近い将来にあっては6Gという通信インフラの整備が不可欠であります。この点はすでに第一の質問で取り上げましたし、第三の質問の中でもふれることにしますので、この第二の質問のなかでは検討を省略することにします。
以上を踏まえて、第二の質問であります。「週末起業や企業の新規進出などを促すためには、どのような方策がありうると考えているのでしょうか。」簡潔にご説明くださるようお願いいたします。
ただいまのご質問について、商工観光課からお答えさせていただきます。
森議員のご質問にありました、藤井孝一氏が提唱する週末起業については在職中に起業し、副業することにより所得の増大に繋げることであり、さらに支援のヒト、モノ、カネのうちヒトは、起業者への情報提供や地域の方とのパイプ役であり、モノにっいては、施設などの提供を行い支援することと解釈します。
このように、モノでいう施設については、旧老川小学校(株式会社 良品計画)や旧総元小学校(SDGs 大多喜学園)では廃校を活用し、民間企業が様々な事業を展開するなど、地域活性化に貢献しています。
このように、モノである施設の活用からそこに集まるヒトの交流に広がり、起業に係る情報交換や知識の共有が図れ、育成に繋がると思われます。
しかしながら、ご質問の空き家を活用した週末起業や新規事業の進出の促進には、森議員がおっしゃるとおり、ネット環境整備の充実は不可欠であり、その他に建物の改修費や維持管理費等の費用を伴います。
また、起業者の事業目的や計画、ニーズを聞き取り、的確に把握することが重要となりますので、充分な検証が必要であると考えます。
このように、空き家を活用した起業や新規起業進出のための方策は、充分な検証と制度等の妥当性を鑑み推進に努めていきたいと思います。
ここから第三の質問に入ります。第三のお尋ねは、「5Gの進展、6Gの構想について、大多喜町はどのように対応しようとしているのか」ということす。
まずは、認識を共有しておきたいと思います。5Gとは5th generation、五番目の世代、6Gは6th generation、六番目の世代という意味であります。
では、1Gから現在の4Gまでどのように発展してきたのでしょうか。5G、6Gは1Gから4Gまでとは大きく異なりますので、簡単に見ておくことにします。勿論私は専門家ではありませんので、ここでは亀井卓也氏と森川博之氏の著書に基づいて説明をします。
1980年代に自動車電話、携帯電話によるサービスが始まりましたが、このときのアナログ方式の移動通信システムが、1Gと言われるものでした[亀井(2019)、30ページ ]。これにより、外出先で電話をすることができるようになり、公衆電話や駅の伝言板が消えていきました[森川(2020)、111ページ ]。そしてこれ以降、ほぼ10年ごとに移動通信システムが革新されていきます[亀井(2019)、31ページ ]。
1990年代にはデジタル方式の移動通信システムが登場し、携帯電話が音声通話だけでなく、電子メールなどのデータ通信のための端末が可能となりました[亀井(2019)、31ページ ]。
2000年代に入り、3Gが登場します。3Gでは携帯電話がインターネットに接続され、通信が高速大容量化してiモードやEZwebのようなプラットフォーム(7)上のサービスが普及しました[亀井(2019)、32ページ ]。カメラや音楽プレーヤーのような機能も備えるようになりました[森川(2020)、111ページ ]。
2012年には4Gのサービスが提供され始め、スマートフォン上のサービスがますます普及するとともに、動画配信サービスやモバイルゲーム(8)のような大容量のコンテンツも広く利用されるようになりました[亀井(2019)、33ページ ]。「アプリをダウンロードすればいくらでも機能を追加でき、スマートフォン1つで買い物から道案内までできるようになった。」[森川(2020)、112ページ ]のです。
繰り返しになりますが、1Gから4Gまでの流れを森川博之氏が簡潔に説明していますので、ご紹介します。「1980年代の第1世代はアナログ方式で、用途は通話に限られていた。1990年代に広がった第2世代でデジタル方式が登場し、文字や絵文字によるメールができるようになる。2000年代の第3世代では携帯電話端末からネットにつなぐのが当たり前になった。そして、2010年代の第4世代でスマートフォンが普及し、SNSや動画配信などの利用が広がり、様々なアプリケーションが登場した。」[森川(2020)、110ページ ]
4Gまでの流れは、通信インフラの革新によって通信需要の高まりに応えてきたという歴史でした[亀井(2019)、68ページ ]。これについては、亀井卓也氏の説明をご紹介します。
「1Gの携帯電話は外出先でも電話ができるという便益をもたらしましたが、消費者は次第により高い通話品質を求めるようになり、デジタル方式の2Gがそれを解決しました。2Gはデータ通信サービスが進化し、iモードやEZwebといったプラットフォームが生まれました。消費者はプラットフォーム上のサービス利用の快適性を求め、3Gがそれを解決しました。3Gでは消費者はスマートフォン上でのリッチコンテンツ利用を求め、4Gがそれを解決しました。」[亀井(2019)、68ページ ]
それでは、5Gの場合にはどうなのでしょうか(9)。5Gは4Gまでと大きく異なることがあります。4Gまでは通信需要に応えて移動通信システムが進化してきましたが、通信需要という点では、4Gでは不充分で5Gが必要だということにはなっていないとのことです[亀井(2019)、67ページ」。4Gまでは「通信業者がサービスを決めて、顧客に電話、メール、インターネット接続などのサービスを提供して」いましたが、現在普及しつつある5Gにおいては、通信業者ですら「何をするのか」を把握できていない状況です[森川(2020)、48ページ」。
したがいまして、通信業者には、「5Gがどう消費者のライフスタイルを革新するのか、企業や社会のデジタルトランスフォーメーションを実現するのか、まだ顕在化されていない潜在的な需要に目を向けて、活用用途を構想し開発するという、能動的な取り組み」[亀井(2019)、69ページ ]が必要とされているのです。
しかしながら、通信業者が用途開発に注力しても、すべての産業における5Gの用途を単独で開発することは不可能であり、通信業者は他産業の企業とパートナーシップ(10)を組みつつあります[亀井(2019)、70ページ ]。5Gにおいては、パートナーシップが大きく展開することでしょう。その結果、「通信事業者は地方公共団体との包括提携も推進(11)しており、用途開発からその実証のためのフィールドまで、5Gサービス提供のための関係者を幅広く巻き込んで、通信事業者とパートナーの間での協業だけでなく、パートナーとパートナーとの間での協業をも促進」[亀井(2019)、73ページ ]しているとのことです。
社会の課題は人口が多い都市部よりも、人口減少が進んでいる地方のほうが深刻で[亀井(2019)、133ページ ]、通信業者としては、そうした地域で見い出した社会課題の解決のための方法を他のところにも展開(12)したいという思惑があって、通信業者の地方公共団体の獲得競争を激化させています[亀井(2019)、71,135ページ ]。通信業者は、「5G時代の競争を勝ち抜くカギが用途開発とその潜在顧客である企業や地方公共団体の獲得にある」[亀井(2019)、71ページ ]と考えているとのことです。
亀井卓也氏によりますと、5G基地局がカバーする範囲を考えると、「都道府県よりも狭い、市区町村単位で5G先進地域が生まれるのではないか」とのことです。その先進地域では新たな産業が生み出され、雇用と所得の増大が図られることでしょう。アメリカや韓国が5G環境の構築を急いでいるのは、「新たな産業を創出したい、新たな産業の担い手を自国に集めたい」と考えているからです[亀井(2019)、231ページ ]。大多喜町が同様の狙いをもって進めるということは、検討に値するでしょう。
そして2030年代には、6Gの世界になります。5Gの活用用途さえ定まらないなかで、ビヨンド5G、6Gの実現に向けて研究が進められています[亀井(2019)、250ページ ]。森川博之氏は、「通信の進化はとめられない。2020年の5Gがすべてではない。6Gの世界を思い描きながら5Gの土俵にあがり、新たなビジネスを考え始めてほしい。」[森川(2020)、247ページ ]とのメッセージを発しています。
以上から考えますと、大多喜町としては、通信業者や一般企業との連携を図り、5Gの活用用途を模索し、そして5Gの先進地域となり6Gを目指す、その結果として雇用と所得の増大を実現する、このような歩みができることでしょう。
5G、6Gは単に通信インフラにしか過ぎません。しかし、大多喜町がそれを整備すれば、一般企業はもとより、通信インフラを研究、実験やビジネスに活用しようとする意欲的な企業が大多喜町に進出するかもしれません。
4Gから5G、6Gへの展開は灯り、電気に例えることができます。今までランプだけであった地域に電気が通り照明に電球が使われ、明るさは格段に高くなりました。そして時代が進むにつれて、次第にラジオ、テレビ、洗濯機、冷蔵庫が普及しました。例えて言えば、今はランプから電球、ラジオに移りつつありますが、その後どのような家電製品が普及するのか判然としないという段階です。大多喜町にしっかりと電気を通し、電球、ラジオを享受しつつ、他の自治体、いやできれば外国に先駆けて、大多喜でテレビや洗濯機が登場することを期待したいと思います。
問題は財政的な裏づけですが、基金残高からみて、大多喜町には一定の財政的余裕があるように思われます。令和2(2020)月4月から令和4(2022)年3月までの間、われわれは、武漢発の新型コロナウイルスにより、精神的、経済的、肉体的にダメージをうけました。当然のことながら、大多喜町としては町民に対して最大限の支援をしたことと思います。
ところが、この2年間で財政調整基金は180,000(千円)、減債基金は47,909(千円)、一般会計基金合計は150,982(千円)、増加しています。とくに、使途自由で一般家庭の貯金に相当する財政調整基金が著しく増大し、この間、約2割も増えています。大多喜町としては、5Gの進展、6Gの構想に対応する財源はあるように思われます。
財政調整基金(単位:千円)
令和元年度末(2020年3月末) |
893,605 |
令和2年度末(2021年3月末) |
893,605 |
令和3年度末(2022年3月末) |
1,019,605 |
減債基金(単位:千円)
令和元年度末(2020年3月末) |
256,606 |
令和2年度末(2021年3月末) |
256,606 |
令和3年度末(2022年3月末) |
304,515 |
一般会計基金合計(単位:千円)
令和元年度末(2020年3月末) |
2,587,581 |
令和2年度末(2021年3月末) |
2,495,146 |
令和3年度末(2022年3月末) |
2,738,563 |
以上の検討を踏まえて第三の質問であります。「5Gの進展、6Gの構想について、大多喜町はどのように対応しようとしているのでしょうか。」簡潔にご説明くださるようお願いいたします。
森議員の一般質問に企画課からお答えさせていただきます。
今後は、5G技術を活用した様々な技術の進展により、人に頼った従来型のサービスや産業からの転換が図られ、都市と地方の地域間格差が解消され、少子高齢化や過疎問題が解決されること期待をしているところであります。特にビジネスや産業分野においては、遠隔制御や自動化など、現場に行かずに業務を進めることが可能となり、またリモートワークの拡大なども可能となると思われます。しかし、通信事業者による5Gは、都市部を中心に提供・展開されており、本町の全域に普及するまでは、もう少し時間がかかるものと考えられます。また、5G技術の活用現状も都市部におけるスマートフォンの「超高速通信」にとどまっており、「超低遅延性」や「多数同時接続」の優位性を活かした社会実装はこれからと言われております。
本町におきましては、5GやDXは、企業誘致や関係人口の増加に重要なものと考えておりますので、引き続き情報収集を行ってまいりたいと思います。
なお、5Gのインフラ整備につきましても、基本的には通信事業者の提供を待つこととはなりますが、通信エリアの現状や通信情報基盤整備等における各種財政支援など情報収集を行ってまいります。また、5Gには、通信事業者が提供する一般的な5G(パプリック5G)の他に通信事業者ではない企業や自治体が、一部のエリア又は建物・敷地内に専用の5Gネットワークを構築する「ローカル5G」、通信事業者が企業や自治体の敷地内に必要な5Gネットワークを提供する「プライベート5G」などもございますので、それらの活用も考えていく必要があると考えます。
私の今回の質問が、施策の立案と推進、今後の計画策定などにおきましてなにがしかの貢献ができるのであれば、誠に幸いです。
本日は、大多喜町経済の活性化による雇用と所得の増大を図るという観点から、企業誘致、起業支援・企業の新規進出支援、5G、6Gへの対応について質問をしました。本日の私の質問をごく簡単にまとめますと、企業と起業の支援をすべきであり、そのためには5G、6Gへの対応は不可欠である、大多喜町としてはそれらについてどのような道筋を考えているのか、ということでありました。
現在の大多喜町は消滅の瀬戸際にあり、時間的余裕はもうありません。多くの選択肢を視野に入れて調査し、大多喜町活性化への道を前へ前へと歩むしかありません。行政責任者としての大多喜町には、地域経済を活性化させることにより雇用と所得を増大させ、先祖から引き継いできたこの大多喜町をしっかりと後世に残していくよう期待したいと思います。
私の今回の質問が、施策の立案と推進、今後の計画策定などにおきましてなにがしかの貢献ができるのであれば、誠に幸いです。
注
(1) この調査は、令和3(2021)年1月18日から2月5日にかけて、WEBと郵送により行われた。調査対象は東京圏に拠点をもつ企業、3443社と東京圏を除く管内基礎自治体が275市町村であった。有効回答数は企業が680社、基礎自治体は企業誘致については171市町村、移住促進が169市町村であった。
(2) 藤井孝一氏によれば、週末起業のビジネスモデルには次のようなものがある[藤井(2003)、77-83ページ ]。
- モデル1 オンラインショップ経営
- モデル2 代行ビジネス
- モデル3 情報発信ビジネス
- モデル4 オンライン教育、コンサルティングビジネス
- モデル5 マッチングビジネス
(3) incubation:1.孵化、抱卵、培養、2.(医)潜伏、3.もくろみ、案。『ジーニアス英和辞典 第5版』大修館書店、平成26(2014)年。
(4) incubator:1.(未熟児の)保育器、2.孵化器;培養器、3.起業支援センター。『ジーニアス英和辞典 第5版』大修館書店、平成26(2014)年。
(5) resource:1.(土地・石油・石炭などの)資源、富、2.(組織が持つ金銭・人などの)資源、財産、・・・・・5.(まさかの時の)手段、算段、方策、方便、やりくち、頼み(の綱)。『ジーニアス英和辞典 第5版』大修館書店、平成26(2014)年。
(6) 独立行政法人中小企業基盤整備機構は全国29ヶ所にインキュベーション施設を有している。自治体等からの補助で賃料が安く、支援メニューにはハード支援でオフィス、ラボ、工場など、ソフト支援ではインキュベーションマネージャーによる相談・支援などがあるという[中小機構(2022) ]。また、公益財団法人千葉県産業振興センターによれば、千葉県内には主なインキュベーション施設が15ヶ所存在するという[千葉県産業振興センター(2022) ]
(7) platform:コンピュータ用語で、プラットフォーム(コンピュータ利 用の基礎となるソフトまたはハードの環境)。『ジーニアス英和辞典 第5版』大修館書店、平成26(2014)年。
(8) mobile:1.限定されていない、動かしやすい、移動式の、可動性の、2.(人が)移動しやすい、(車などがあり)動きまわれる、3.流動性のある、(職業・住居・階級などを)容易に変えることができる。『ジーニアス英和辞典 第5版』大修館書店、平成26(2014年)。
(9) 日本が商用サービスを開始したのは2020年で、早い国で は2018年に開始しているので、それほど早いわけではありません[亀井(2019)、67ページ ]。ただ、日本が遅れているというわけでもない。亀井卓也氏は次のように述べています。「日本が遅れをとっているというわけでもありません。なぜなら、5Gの存在意義は通信インフラそのものにではなく、その通信インフラの上で、どのように人のライフスタイルを革新できるか、企業や社会のデジタルトランスフォーメーションを実現できるか、にあるからです。日本はそういう目的意識で動き出しており、5Gの活用可能性を追求するという観点では、世界を先導するポジションにあります。」[亀井(2019)、67ページ」
(10) partnership:1.(ビジネス上の)提携、共同、協力、2.協力[共同]関係、3.共同経営の会社、共同事業。『ジーニアス英和辞典 第5版』大修館書店、平成26(2014)年
(11) 亀井卓也氏によれば、NTTドコモが山梨県、沖縄県の4町村などと、KDDIが薩摩川内市、白馬村などと、ソフトバンクは徳島県、福山市などと連携協定を締結している[亀井(2019)、134ページ ]。状況は著書刊行後、さらに進展していると思われる。
(12) 地方への展開について、日本は光ファイバーの観点からみて優位な立場にある。「日本には米国などより格段に高い「光ファイバーの敷設率」という利点がある。5Gの利点を活かすためには、5Gの基地局を光ファイバーで接続しなければいけない。光ファイバーが隅々にまで整備されているわが国は、全国的なサービス展開という観点からも高い優位性を有している。」[森川(2020)、145ページ ]
【参考文献】
あずさ監査法人インキュベーション部編『実践インキュベーション大学発スタートアップ・エコシステムへのインサイト』中央経済社、令和4(2022)年。
我孫子市「オフィス開設等促進補助金」、
https://www.city.abiko.chiba.jp/
jigyousha/kigyouricchi/
office500.html
令和4(2022)年11月7日アクセス。
大多喜町「大多喜町企業誘致及び雇用促進に関する条例」令和3(2021)年3月4日条例第9号、大多喜町総務課編『大多喜町例規集 令和4年度版』令和4(2022)年、2635-2637ページ、
https://www.town.otaki.chiba.jp/
index.cfm/9,679,c,html/
679/20210730-142219/pdf
令和4(2022)年11月7日アクセス。
大多喜町「令和元年度決算カード」、「令和2年度決算カード」、https://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/
card-20html、令和4(2022)年11月23日アクセス。
大多喜町「令和元年度 大多喜町決算書」「令和2年度 大多喜町決算書」「令和3年度 大多喜町決算書」
御宿町「御宿町企業移転等支援補助金」
https://www.town.onjuku.chiba.jp/
sub5/1/40.html
令和4(2022)年11月7日アクセス。
亀井卓也著『5Gビジネス』日本経済出版社、令和元年(2019)年経済産業省関東経済産業局「地方移転に関する動向調査結果
【概要版】」令和3年4月、
https://www.kanto.meti.go.jp/
press/data/210421chihoiten_chousa_
gaiyouban/pdf
令和4(2022)年1月27日アクセス。
千葉県産業振興センター「主なインキュベーション施設(千葉県内)」、
https://www.chibalimawari.org/main/
wp-content/uploads/2020/04/
9bc88a37b106970c6e45039771bf9aca-1.pdf
令和4(2022)年11月7日アクセス。
東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)「インキュベーションとは?意味や内容を徹底解説!」、
https://www.utokyo-ipcco.jp/column/incubation/、
令和4(2022)年11月7日アクセス。
日本総合研究所「本社だけではなく支社の影響も大きい地域経済・地方財政~雇用や生産への貢献を活かし、増税への利用は慎重に~」、
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id-3780
令和4(2022)年11月7日アクセス。
藤井孝一著『週末起業』筑摩書房、平成15(2003)年。
「本社新設・移転に補助金」、『千葉日報』令和3(2021)年5月4日。
森川博之著『5G 次世代移動通信規格の可能性』岩波書店、令和2(2020)年
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